ゲーム音楽は、音楽単体で成り立っている訳ではなく、あくまでゲームが主体という点が特徴です。
ただ好き勝手に曲を作ればいい訳ではなく、ゲームの世界観や場面、遊びのテンポに合わせた楽曲が求められる。それは、作曲する方にとって、ある意味縛りともいえるかもしれません。
ですが、「ゲーム音楽」という素晴らしい縛りがあるからこそ、作曲家さんの個性が一層輝くことがあると個人的に思っています。
そこで、今回は大好きな任天堂作品の音楽について、作曲家さんごとの個性を考えてみたいと思います。
私自身決して音楽に詳しいわけではないですが、この記事が「任天堂作品の音楽って素敵だなあ」と感じるきっかけの1つになれば幸いです。
第1回は、個人的に大好きなシオカラーズの楽曲を担当している、藤井志帆さんの曲を紹介させていただきます。
懐かしさとフレッシュさが同居した楽曲
「ハイカラシンカ」「キミ色に染めて」「シオカラ節」「あさってColor」「シオカゼの星」……
藤井さんが手がけたシオカラーズの楽曲は、どれも現代的なテクノのカッコ良さが詰まっています。
ですが、シオカラーズの曲の魅力は、それだけではありません。
田舎で過ごした子供時代や学生時代の思い出、そして母なる海。そんな、懐かしい記憶に思いを馳せるノスタルジックさも、シオカラーズ曲の魅力の1つです。
そして、この「懐かしさ」と「新しさ」という相反する2つの魅力が同居しているのが、藤井さんの楽曲の一番の特徴だと個人的に思っています。
例えば、ゼルダの伝説 スカイウォードソードで、リンクやゼルダ達が暮らす街、「スカイロフト」の音楽。
私はこのゲームを遊んだ時、スカイロフトに帰ってきてこの曲が流れるたびに、故郷に帰ってきたような安心した気持ちになっていました。
加えて、特にゲームの序盤は、まだ見ぬ冒険へのワクワク感や学園生活のフレッシュさをこの曲が演出してくれていて、そのおかげで心躍る体験ができました。
イカ世界も、スカイロフトも、どちらも現実とは少し違った特徴を持つ、非日常の世界です。
ですが、藤井さんの楽曲が、非日常のワクワク感を「新しさ」で表現しつつ、同時に「懐かしさ」という共感できる感情を呼び起こしてくれたからこそ、非日常の世界がグッと親しみやすく感じられて、あの世界を大好きになれたのだと思っています。
口ずさんで楽しい、物語性のあるメロディー
シオカラーズのような歌がある曲以外にも、藤井さんの楽曲は、歌モノっぽいメロディーが多いなあと個人的に感じます。
どうして歌モノっぽく感じるのかな?と考えてみたのですが……
フレーズが覚えやすくて記憶に残るのは勿論、メロディーにストーリー性を感じるのが、大きな理由かなと思いました。
後は、メロディーの後に目立つ形でオカズ(メロディーとメロディーの間を埋める合いの手のフレーズ)が挟まっている曲が多いのも、理由の1つかもしれません。
歌モノの場合、「メロディーの入りと終わり」を分かりやすくして、歌い手の人が歌いやすくするために、しばしば分かりやすいオカズが曲の中に挟まります。
藤井さんの曲も印象的なオカズが多く、例えばマリオカート8の「エレクトロドリーム」のオカズは、「ハイカラシンカ」のメロディーとどこか共通する感じがある、分かりやすくて目立つフレーズです。
ゲーム音楽は、ゲームの体験を思い出として記憶に残す上で、重要な役割を果たしていると思っています。なので、口ずさめるメロディーの曲は、その思い出をより強固にしてくれる気がして、凄く素敵だなあと思います。
愛にあふれた自然なエレクトロサウンド
藤井さんの楽曲の特徴として、8bitのピコピコ音や、シンセサイザーを使った曲が凄く上手い!と勝手に思っています。
さりげなくピコピコ音を使った曲として、個人的に大好きなのが、Splatoon2の「あさってColor」です。
シオカラーズの2人の可愛さや、懐かしい思い出の尊さ、ささやかな日常のキラメキなど……
2人の歌にそっと寄り添いながら、ピコピコ音が色々な想いを呼び起こしてくれます。
そして、ピコピコ音を前面に使った曲としては、マリオカート8の「エキサイトバイク」が本当に凄い!
その音色のキャッチーさは勿論の事、初めて聴いた時に、ピコピコ音ってカッコ良い!と感動したことを覚えています。
どちらの曲にも共通するのが、単にピコピコ音を印象的な音として使うのではなく、その音色を活かして楽曲の魅力を一層引き出しているところ。
ピコピコ音を最高に活きる場面で使っているからこそ、押しつけがましくなく、自然な楽曲になっていると感じます。
この自然なエレクトロサウンドの良さが活きているのが、過去作のアレンジ曲。
スーパーマリオ オデッセイでは、スーパーマリオワールドの「ボーナスステージBGM」と、スーパーマリオカートの「マリオサーキット」BGMのアレンジを聴くことができます。
どちらも原作の良さやイメージを崩さない愛にあふれたアレンジで、本当に最高です!
穏やかで聞き飽きない楽曲
藤井さんの曲は、大胆な転調でグッと盛り上がる煌びやかな曲…というよりも、ハウスミュージック的な展開が静かな曲が多い印象です。
実際、藤井さんはどうぶつの森のとたけけミュージックで、「けけハウス」というハウスミュージックの音楽を作曲されています。この曲、本記事で書かせていただいている藤井さんの音楽の良さがすべて詰まっている名曲なので、是非一度聴いてみていただきたいです!
この曲を聴いても分かる通り、ハウスミュージック的な曲はとてもカッコ良いですが、どうしても起伏が少なくなります。
ですが、藤井さんの曲は、落ち着いているのに単調にならず、凄く胸を打つのが特徴的です。その理由は、先述した歌モノっぽいメロディーの良さが生きているからだと、勝手に思っています。
メロディーにちゃんと展開や物語性があるので、全体の流れが穏やかでも、きちんとドラマチックな曲になる。
そして穏やかだからこそ、何度聞いても聞き飽きないのだと思います。
この特徴がもたらす良いところは、どんなゲーム展開にも1曲で対応できることです。
例えば、2Dマリオや3Dマリオのようなゲームの場合、1つのステージでもプレイヤーによって展開が様々。そうなると、ステージの雰囲気に合わせて壮大な曲が流れているけれど、プレイヤーはただコインを集めているだけ…という状況も起こり得ます。
つまり、1曲の中に起伏がありすぎると、今の自分の状況と曲があっていない!という事態が起きる恐れがあるのです。
でも、音楽の起伏が少なければ、どんな状況でも、音楽が自然とプレイヤーに寄り添ってくれます。
この良さが特に活きているのが、「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」の「フィローネの森」と「ラネール砂漠」です。
スカイウォードソードでは、1つのフィールドを何度も繰り返し訪れるゲームデザインになっています。
つまり、同じ楽曲を違うシチュエーションで何度も繰り返し聴くことになるので、藤井さんの曲が持つ素晴らしさが最高にマッチしているんです。
クールなボス戦曲
先述した、「曲が大きく変化することは無く、落ち着いている」という点、そして「印象的なメロディー」がボス戦曲でも活きています。
藤井さんが作るボス戦の曲は、とにかくクール!
壮大な楽器編成や荒ぶるベースやドラム、大胆な曲構成で盛り上げるというよりは、どっしりと構えた安定感が特徴です。それが、キャラクターの持つ揺るぎない強さやカッコ良さ、緊張感を感じさせてくれます。
そして、印象的なメロディーが戦いの熱さを物語ることで、気分を高揚させてくれるのです。
例えば、スカイウォードソードの「ギラヒム戦」、マリオオデッセイの「クッパ戦1」。ボス戦曲という意味では、Splatoonの「シオカラ節」もこの中に入るかも。
どれも極上のカッコよさなので、是非聴いてみていただきたいです!
終わりに
懐かしさと新しさが同居した藤井さんの楽曲は、ゲーム音楽だからこその魅力が詰まっていると感じます。
直近でも、スーパーマリオブラザーズ ワンダーの作曲を共同で担当されており、また新しいゲームで新曲を聴けたら嬉しいなあと個人的に思っています。
おすすめサウンドトラック
- Splatoon ORIGINAL SOUNDTRACK -Splatune
- SPLATOON2 ORIGINAL SOUNDTRACK -Octotune-
- ゼルダの伝説 スカイウォードソード オリジナルサウンドトラック
- スーパーマリオ オデッセイ オリジナルサウンドトラック
- あつまれ どうぶつの森 オリジナル・サウンドトラック 2
- Mario Kart 8 Original Sound Track
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