フューリーワールドに見る、プレイヤーを迷わせないための工夫

ゲーム

この記事には、フューリーワールドのクリア後までのネタバレが含まれています。閲覧の際はご注意ください。

スーパーマリオ3Dワールド+フューリーワールドで遊ぶことが出来る「フューリーワールド」では、全てのステージがシームレスに繋がった広い「ネコの国」を冒険します。

自分の好きなように自由に世界を走り回って、気になった遊びからどんどん攻略できるので本当に楽しいです!

しかし、何をしても自由であるということは、時として「何処で何をすればいいか分かりづらい!」という問題を引き起こします。

例えば、「ストーリーを進めたいと思っているのに、何処で何をすれば話が進むのか全く分からない!」という時。こうなると、自分が今やっていることが本当に正解なのか不安になったり、それがストーリーを進めるのに全く関係ないことだったらガッカリ…なんてことも起きるかも。

そこで、フューリーワールドでは「何処で何をすれば良いか分からなくて、迷ってしまう」という問題をどうやって解決しているかを考えてみました。

意識させずプレイヤーを導く、動線設計

フューリーワールドでは、ゲームを進めるために訪れる必要がある場所が3つあります。

ライバルでも、誰かが本当に困っていたら助けるのがヒーローです。

1つ目は、「困っているクッパJr.」の所。ここからネコシャイン集めが本格的に始まります。

今作のカギを握るアイテム、ギガベルです。

2つ目は、「ギガベル」の所。ここでギガベルについての話を聴くことで、「ネコシャインを集めてギガベルを開放することで、フューリークッパを倒す」というこのゲームの一連の流れを知ることになります。

ネコシャインは、ステージ以外にも色々な所に隠されています。

最後の3つ目は、「フィールドに点在するステージ」。ここでネコシャインを集めないと、フューリークッパを倒すことが出来ません。

この3つの場所にプレイヤーが辿り着けないと、どうすればストーリーが進むのか分からず迷ってしまいます。

そのために大切なのが「動線設計」

地形の起伏、目を引く建物や敵キャラクター、カメラアングルなどを駆使することで、作り手が想定するルートへとプレイヤーを誘導することが出来ます。後はそのルートに沿って進めば、ここに行ってほしい!…と作り手が思っている目的地にプレイヤーがきちんと辿り着けるという仕組みです。

クッパJr.への動線設計

最初のネコシャインを獲得した後、プレイヤーは困っているクッパJr.の所へ向かうことになります。

クッパJr.だけでなく、その後行く事になるネコネコ島(最初のステージ)からギガベルまでここから一望できます!

この場所へプレイヤーを導く動線設計として、まず考えられるのが「高台」の地形です。

このゲームの最初のネコシャインは高台にあり、プレイヤーはまずそこから困っているクッパJr.を見下ろすことになります。

地上だと、場所によってはフィールドに生えている木などが視界を遮ってしまうことがあります。しかし、高台なら上から見下ろすので視界を遮るものが少なく、さらにフィールドを広く見通すことが出来ます。

そのため、クッパJr.がいる場所やそこに至るまでのルートがはっきりと分かりやすくなっているんです!

地上でも、高台でも、HELP!というメッセージは見えます。

さらに、一目で「あそこに行けば良い!」と分かるように、クッパJr.はHELP!というメッセージを出してくれていて、とても手厚い動線設計になってます。

ただ、手厚くするからといって、例えば「最初のネコシャインを獲ると、カメラが動いて困っているクッパJr.をアップで映す」というようなクッパJr.の方向に注意を向けるためのムービーシーンを差し込んだりしていないのが面白いと思いました。

ムービーシーンを使えば目的地やそこまでのルートをはっきり分かり易く映して印象付けることが出来るので、プレイヤーを誘導するにはもってこいです。ただし、それ故に使い方を誤ると「どこに行けばいいかを自分で見つけて考える」という能動的な楽しさを削いでしまう危険もあります。

そのため、プレイヤーの誘導は他の動線に任せて、ムービーではクッパJr.を分かり易く見せずに「水面に浮かび上がるステージ」を映すだけにすることで、「誰もが迷わない」ことと「自分で行き先を見つけて能動的に目的地まで辿り着ける」ことのバランスを取っているのかもしれないと思いました。

また、フューリーワールドは思うがままにマリオを操作するのが楽しいゲームなので、クッパJr.に注意を向けるムービーが無い分プレイヤーがマリオを操作できる時間を多く取ることにも繋がっていると思いました。

さて、ここで高台からクッパJr.の所へ向かうためには、高台から下へと落下する必要があります。
ですが、こんなに高い所から思い切って下に飛び降りて良いのだろうか?と考えると、少し不安…
そもそも、「下に飛び降りる」という行動が思いつかないこともあるかもしれません。

そうなると、せっかく目的地がクッパJr.の所だと分かっても、どうやってそこまで行けば良いのか分からなくてプレイヤーが迷ってしまうかも。

飛び降り台にはコインが置かれているので、自然と飛び降り台に引き寄せられます。

そこで、フューリーワールドでは、頂上のネコシャインのすぐ側に「飛び降り台」が設置されています。飛び降り台があるおかげでプレイヤーは自然とそこから下に飛び下りるように誘導されますし、飛び降りることに躊躇があるプレイヤーにとっては「ここから落下していいんだ!」という安心感につながります。

さらに、「ネコシャインを獲った後は飛び降り台から落下」という手順をここで学習させることが、実はギガベルへの動線の話にも絡んでくるのですが、それは後ほど…

因みに、もしここで迷ってしまっても、周りが黒いドロドロの絵の具(当たるとダメージを受けます)で囲まれていて、どうあがいても最終的にクッパJr.の所を通らないと先に進めないようになっているので安心です。

「えっ?どうせどうあがいてもクッパJr,の所を通らなきゃいけないなら、無理して動線を作ってプレイヤーを誘導しなくてもいいのでは?」…と思うかもしれませんが、例え最終的に目的地にたどり着けたとしても何処に行っていいか分からず迷っている時間はそれだけでストレスに繋がります。さらに、何処に行けば良いかよく分からず適当に歩いていたらクッパJr.の話が急に始まった!…となれば、何が起きたのか最初は理解しづらくなってしまいます。

なので、単純にクッパJr.の所にたどり着ければ良い!という訳でなく、動線設計を丁寧に行うことで「クッパJr.に気づく→クッパJr.の所へ向かう→クッパJr.の話を聞く」というようにしっかり段階を踏んでプレイヤーが目的地に辿り着けるようにすることが大切なのだと考えます。

ギガベルへの動線

最初のステージ「ネコネコ島」の頂上からギガベルまでの動線は、先程まで見てきた「クッパJr.への動線」とそっくりです。

この画像と、少し上の「クッパJr.への動線」の画像を比べてみると、とても似ていることが分かります!

飛び下り台があるので、プレイヤーはそこから落下するように誘導されます。そして、落下した先にはギガベルがある…という感じで自然にギガベルまで辿り着くことが出来ます。

しかし、クッパJr.の時とは決定的な違いが1つ!

それは、クッパJr.が発していた「HELP!」というメッセージのような、ネコネコ島の頂上からギガベルに向かうようにプレイヤーの意識を誘導する演出が無いことです。

セリフやメッセージなどの演出による誘導はとても分かり易く、親切な動線です。しかし、分かり易いが故にプレイヤーが自分で考える前に「ここに行くように」と行き先を指示してしまうことがあります。その結果、せっかく自由度が高いのに、自分で行き先を見つけて能動的に冒険する体験を妨げてしまうかも。

でも、だからといってセリフやムービーの演出が無いのは不親切なのでは?…という気もします。そこで、このような演出を削ってもプレイヤーがきちんとギガベルの所にたどり着けるよう、フューリーワールドでは何か仕込みをしているのでは!と考えました。

それが、先程まで見てきた「クッパJr.への動線設計」

クッパJr.の時に一度「ネコシャインを獲った後は頂上から飛び降りる」という手順を踏むことで、プレイヤーの体にはこの動きがルーティーンとして自然と沁み込まれています。

それならば、セリフの演出を使って手厚く誘導しなくても、飛び降り台やコインといった必要最小限の誘導でプレイヤーは自分から「ネコシャインを獲った後は頂上から飛び降りる」という行動を取ってくれます。

ここまでいけば、後はギガベルまで一直線!

このように、ネコネコ島からギガベルまで指示されることなく自然と辿り着けるようになっているので、より自由に冒険している気分にさせてくれます。

かといって、「プレイヤー自身が自由に考えられるように!」と単純に何でもかんでも演出を削るのではなく、ネコシャインをギガベルが解放できる数まで集めた時は「…ギガベルから声が聞こえる」というメッセージが表示されるなど、大切な時や分かりづらい場面ではしっかりメッセージの演出があるのが優しく丁寧で嬉しいなぁと思いました。

ステージへの動線設計

3Dマリオのステージには、動く金網、回る足場、赤と青の回転するパネル、透明な土管など…遊びとしての面白さは勿論、見た目にも印象的な仕掛けが沢山登場します。

フューリーワールドでもこうした特徴的な見た目の仕掛けがステージに使われているので、フィールドの中でステージがとても目立ちます。

その結果、フィールドを散策していると自然とステージの方へ目がいって上手くステージに誘導されるようになっているのです。

左のプロペラ砦、真ん中のコロッセオ島、右のロングスライダー
この3つが近くに見えたら、自分はネコの国の北側にいる…ということが分かります。

また、ステージの特徴的な見た目は1つ1つのステージが目立つランドマークとして機能することにも繋がっています。

ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルドでいうハイラル城や神獣、 デスマウンテンのように、一目で「あれは〇〇」と分かるランドマークは、「今世界のどの辺に居るのか」「次の目的地へはどう行けば良いのか」というような情報を得る上で手助けになります。その結果、迷いにくさに繋がっていくといえます。

しかし、どんなにステージの見た目が特徴的でも、プレイヤーがいる場所やカメラアングルが悪くて目に入らない時があります。それに、ランドマークを頼りに色々な情報を得るのは結構難しい…

?や!マークになっているのが、ステージがある場所です。

でも、もしどこにステージがあるか迷ってしまった時でも大丈夫。なぜなら、フューリーワールドの主要なステージはほとんどがギガベルから続いているからです。迷ったらギガベルの場所に戻ればそこからステージがすぐに見つけられるようになっているので、迷うストレスを感じる時間が少なくて済むのが嬉しい!

「いやいや…迷ったらマップ画面からファストトラベルを使って、ステージまでワープすればいいじゃん!」と思ったかもしれませんが、実はフューリーワールドはクリアするまでファストトラベルが出来ません!

ファストトラベルはフィールドを移動する面倒くささを解消してくれて、さらに迷った時の解決策としても有効!…という一石二鳥のシステムですが、広いフィールドをロードなしで思うがままに駆け回れるせっかくの機会を減らしてしまうともいえます。

そこで、フューリーワールドでは思い切ってクリアまでファストトラベルを封印して、フィールドを駆け回って探索する楽しさを重視させているのが面白いです。

それでも快適さが失われていないのは、動かしているだけで楽しいという手触りの良さや迷わせない工夫といった、3Dマリオがずっと大切にしてきた良さが活きているからかも!と思いました。

ゲームの目的をフューリークッパで印象付け

ストーリーを進めるためにやるべき事は、そのゲームの「目的」と強く結びついています。

例えば、フューリーワールドの目的は「暴走したクッパJr.のお父さん(フューリークッパ)を止める」ことです。そのために「ネコシャインを集める」→「ギガベルを目覚めさせてフューリークッパを倒す」ことがストーリーを進めるためにプレイヤーがやるべき事になっています。

これを言い換えれば、そのゲームの「目的」が分からなくなると、ストーリーを進めるためにやるべき事が何なのか迷うことに繋がってしまうかも!

では、フューリーワールドでは、どのようにしてプレイヤーにゲームの「目的」を意識付けているのでしょうか。

フューリークッパ、雰囲気もBGMもとてもカッコ良い!

ここで重要な役割を果たすのが、「フューリークッパ」の存在です。

これまでの3Dマリオでも、例えばスーパーマリオ オデッセイでは雲の国と月の国で2回クッパと対決するなど、道中で何度かクッパと戦うことでクッパの存在が印象に残るような仕掛けがありました。しかし、クリアまでにクッパと対決するのは多くても3〜4回ほど。

対して、今作では一定時間が経つとフィールドに毎回フューリークッパが現れます。すると、プレイヤーはこれまで以上に何度もクッパと遭遇するので、その分クッパの存在感が高まりやすくなっています。

コースの印象がガラリと変わって、とても新鮮な体験が出来ます。

さらに、フューリークッパはギガベルが無い通常の状態では倒すことが出来ません。そんな状態で熱戦攻撃や地形の変化などによって難しくなったコースを攻略しなければならないので、フューリークッパの強さがとても怖く感じられます。

このように、クッパの強さや存在感をプレイヤーが実感するにつれて、「フューリークッパを倒したい」という気持ちはどんどん強まっていきます。

結果として、これまで以上に「クッパを倒す」という目的意識が強まって、ゲームの目的を見失いにくくなっているのではないかと考えます。

全てはネコシャインに通ず

迷子の子ネコ探し、印象深いなぁ…

フューリーワールドではとにかく沢山のネコシャインを集めることで、ギガベルが解放されてストーリーを進めることが出来ます。しかし、広いネコの国には色々な遊びが散らばっているので、何をすればネコシャインが手に入るのか迷ってしまうかも…

でも大丈夫!フューリーワールドではステージクリアでネコシャインが手に入るのは勿論、迷子の子ネコを探している親ネコを助けてもネコシャインが手に入りますし、フィールドに居るウサギを捕まえてもネコシャインが手に入ります。

こんな感じで、プレイヤーはコースを攻略したり、ネコの国を自由に探索したり、目についたミニゲームを楽しんだり、どの遊びを楽しんでも基本的にネコシャインそのものが手に入るようになっています。そのため、どの遊びを遊べばストーリーが進むのか迷ってしまうことがありません。

これまでの作品でも、スーパーマリオ64やスーパーマリオギャラクシー、スーパーマリオ オデッセイなどでは、基本的にどのクエストやミニゲームもパワースターやパワームーン獲得に繋がっていました。

なので、この部分はこれまでの3Dマリオの良い所を踏襲しているといえるかも!

縁の下の力持ち

ステージにある灯台も、プレイヤーを導いて迷わせない工夫の1つですね!

ここまで、フューリーワールドのプレイヤーを迷わせない工夫について自分なりに色々考えて書いてみました。でも、実際にゲームを遊んでいる時にこうした工夫を意識することは無く、自然に動線に導かれてネコシャイン集めに熱中していました。

動線を意識させないことは、没入感やコースを攻略する純粋な楽しさを損ねることなく快適にゲームを遊ぶことに繋がると思います。相手におもてなしだと気づかせない、自然なおもてなし…そんな丁寧で素敵なやさしさが、このゲームの快適さや遊びやすさを支えているのではないでしょうか。

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